体の痛みは心と関係がある?-第2話 慢性痛とは何か?-

あやせ駅前整形外科・内科では、様々な痛みを抱える患者さんが来院されます。

ケガの治癒と共に痛みが改善し、社会復帰を果たされる方もおられますが、慢性の痛みを抱え、社会復帰後もなお、痛みと向き合いながら通院される方もいらっしゃいます。

普段、私たちが感じている「痛み」には様々な種類の「痛み」があります。

鋭い痛みや鈍い痛み、すぐに治ってしまうものや長期化してしまうもの。

そもそも「痛み」とは何なのでしょうか?

私たちを悩ませる「痛み」について、その複雑なメカニズムをシリーズを通してお話ししていきたいと思います。

シリーズ第2話となる今回は、慢性痛について、そのメカニズムをお話ししていきたいと思います。

【慢性痛とは?】

痛みは大きく分けて、急性痛慢性痛に分けることができます。

第1話でお話しした急性痛は、主にケガや炎症によって生じる症状であり、原因が治れば痛みもなくなるのが特徴です。

これに対して慢性痛は、ケガや炎症はすでに治っているのにもかかわらず痛みが持続してしまうのが特徴です。

では、なぜ痛みが続いてしまうのでしょうか?

第1話でもお話しした通り、痛みはケガをした部位で感じていますが、実際の痛みは、その刺激を脳に伝達することで処理され、「知覚」されています。

つまり、痛みは「脳」で感じていることになります。

最近の研究では、慢性痛は痛みに関わる神経系、特に脳の神経が過敏になり、ちょっとした刺激でも過剰に反応してしまい、その結果として疼痛が引き起こされることがわかっています。

脳の神経が過敏になるとはどういうことなのでしょうか?

本来なら情報のやりとりがないはずの神経細胞同士がつながってしまったり、やりとりする情報量が増えたりすることで、痛みに関与する神経系が異常な興奮を起こし「痛い」という情報が脳に送られ処理され続け過敏になってしまうのです。

そのため、痛みを起こすような刺激でなくても「痛い」と認識し、さらにそれが「記憶」として脳内にとどまってしまいます。

そのため、ケガや炎症が治った後も痛みを認識し続けてしまい、これが慢性痛となり、痛みが持続してしまうわけです。

つまり、慢性痛の原因は、脳にまつわる神経の異常によって引き起こされるものが多いことから、慢性痛は神経の病気と捉える考え方もあるのです。

厚生労働省の「慢性の痛み対策研究事業」で行われた調査によると、3か月以上持続する慢性痛に悩む人の割合は15~22%で、およそ5人に1人が慢性痛を抱えていると言われています。

しかし、慢性痛を訴える人の中で病院にかかっている人は45%に過ぎず、その中でも痛みの治療に満足している人は30%を切っているのが現状です。

そのため、当院に慢性痛を抱えて来院される方にも、「痛みがあるのは仕方ない」「病院に行っても治らない」と感じてしまい、治療を半ばあきらめかけていた方も少なくありません。

【痛みと心をつなぐ「脳」】

私たちの「脳」には、大きく分けて2つの役割があります。

それは「感じること」「伝えること」です

みなさん、乾燥した時期にドアノブに指を触れたとたん「パチッ!」と静電気が発生し、思わず手を引っ込めてしまうことってありますよね?

これは、静電気の刺激で「痛い!」という刺激を脳が認識し、「そこは痛くなる場所なので、手を引っ込めなさい!」と脳が腕に伝えた結果です。

ではこの「痛い!」という刺激は、脳のどこで感じているのでしょうか?

通常、脳は感じたり、伝えたりする際に、その目的や環境に応じて働く場所が決まっています。

見るために必要な視覚野、聴き取りに必要な聴覚野など、その役割に応じた機能が脳内に局在して機能しています。

ところが痛みの刺激については、その場所は明確になっておらず、むしろ脳全体で感じる仕組みになっているのです。しかも、その仕組みの詳細はまだ解明されておらず、現在盛んに議論されているのが現状です。

なぜ痛みの刺激は脳全体で感じる仕組みになっているのでしょうか?

見えたり、聞こえたり、冷たく感じたりなど、五感の感覚は脳の中でもその役割を担う場所が決まっているのに対して、痛みの刺激は脳全体で感じる仕組みになっています。

これは、痛みを感じる仕組みが、生命を守るための警告信号として重要な役割を担っているからです。

このため、みなさんもとても辛かった痛みについては、いつ、どんな状況でケガをしたかを覚えていますよね?

例えば痛みを感じる伝導路(連絡路)の一つは、記憶に関係する扁桃体や海馬と呼ばれる脳の場所を経由することがわかっています。

痛みを生命にとって危険と判断するために、記憶として残すことにより繰り返さないようにしているわけです。

急性痛の場合、ケガが治ってしまえば記憶もされなくなります。「喉元過ぎれば熱さを忘れる」ということですね。

しかしこれに対して慢性痛の場合、持続的な痛みにはもはや生態を守るための危険信号としての意味はありません。痛みが持続してしまうため意味もなく痛みを記憶し、さらに過去の痛みの記憶がこれを助長することで、脳内でもその刺激は増幅されるといわれています。

また、痛みと気分、感情をコントロールする脳内メカニズムは関係が深いことも解っています。痛みが続くと気分の落ち込みや不安、イライラや怒りっぽくなったりと、感情にも影響があるのです。

このように現代医療では人の心と身体を切り離すことはできないと考えられており、さらに、その人を取り巻く人間関係や社会とのつながりまでも含めて、トータルに診ることが必要とされています。

これはすべての医療において重要な考え方ですが、とくに慢性痛の治療では不可欠なものとして認識され始めています。

【脳は「痛み」をどのようにとらえているのか?】

ここまでのお話では、痛みは脳で感じていることをお伝えしてきました。

それではそもそも、なぜ脳は同じ痛みなのに、「急性痛」と「慢性痛」に分けてしまうのでしょうか?

それは脳が痛みを感じ、その情報を処理する際に大きく3つの側面でとらえるからだといわれています。

①感覚的側面

ドアノブを触った際に「バチン!」と指先に刺激を感じるとします。

この際、指先から脊髄を介して脳へその刺激が伝えられ「どこが痛いのか?」という情報を処理し、「指先だ」と判断します。そのうえで「どういう痛みか」「どのぐらいの強さの痛みか」といった情報が伝えられ、「結構今のは痛かった!」と、段階的に処理され知覚されます。主に急性痛や痛みの場所がはっきりしている痛みの処理に使われます。

②情動的側面

交通事故によるむち打ちやぎっくり腰など、突然発生する強い痛みですが、発生直後は意外とその明確な場所がわからないことがあります。「首のあたり」「腰のあたり」と、大まかな場所はわかるのに、ピンポイントで「ここ!」というのがよくわからなかったりして、本当に不快な痛みとしてとらえられます。じっとしていてもズンという痛みなど、時には心拍数や血圧が上がったり、冷や汗が出たりなど自律神経活動の不調を伴うこともあります。

③認知的側面

今感じている痛みが、過去に経験した痛みと比べて、どのような意味を持つかを処理し、「この痛みはどれぐらい注意したほうがいいのか?」「この痛みはこの先どうなるのか」

などの認識につなげ、最終的には痛めた部分(手足)をどのように使うべきかのイメージを作り上げます。

とりわけ、この情報処理は情動に関係する前頭葉、記憶に関係する扁桃体や海馬などを経由し体のイメージを作り上げる頭頂葉へ伝えられるため、前述の情動的側面とも重なり、これが過剰に働くことで慢性痛に移行すると考えられているのです。

【脳が勘違い?放っておくと怖い「学習性不使用」】

ケガをした後の痛みは、体を守るための生体防御反応とお伝えしてきましたが、痛めた手や足などは積極的に使おうとはしませんよね?

しかしこれがあまりにも長く続いてしまうと、ケガをした部分を使わないように脳が学習してしまう「学習性不使用」と呼ばれる状態に陥ってしまうことがあります。

この状態になってしまうと、前述した「①感覚的側面」の情報処理能力が低下することで、「どこが痛いのか?」「どれぐらい痛いのか」といった情報処理がうまくできず、生体を守るための防御反応がうまく作用しなくなることが知られています。

さらには、「②情動的側面③認知的側面」の情報処理能力も低下することで、自分の手足なのに、他人の手足を動かしているような錯覚にも陥ってしまい、自分の思い通りに手足が動かせないことからストレスを感じてしまい、社会復帰の障壁となるケースもあるのです。

【脳における痛みと情動の関係】

前述の認知的側面に影響する脳領域として前頭前野と呼ばれる場所があります。この領域は内側と外側に場所が分かれ、それぞれ機能が違うことが知られています。外側前頭前野は痛みの注意、内側前頭前野は情動のコントロールを行います。

実はこの2つの領域は、一方が働けば、もう一方は抑制されるといったように、お互いがシーソーのような関係で成り立っています。

このことから、痛みに対して過剰に注意を向けていると、内側前頭前野の活動が抑制されてしまい、情動のコントロールが難しくなってしまうのです。

つまり、気にすれば気にするほどつらくなってしまうということです。

ではこの痛み、いったいどうすればよいのでしょうか?

次回のコンテンツは、この痛みに対する対処方法など、今研究されている情報などをご紹介していきたいと思います。どうぞお楽しみに!

投稿日:2021年11月29日|カテゴリ:医療情報