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腰の痛みはいつ治る? -第1話 腰痛の基本知識-

当院には日々、様々な痛みや不調を抱えた患者さんがご来院されますが、その中でも特にご相談が多いのが「腰痛」です。

お仕事や家事、育児、あるいは趣味のスポーツなど、日々の生活の中で腰の痛みに悩まされている方は後を絶ちません。
最近のインターネットやテレビ番組などでも、腰痛や健康に関する情報があふれています
なんだかどの情報を参考にすればいいのか迷いますよね?

その中には有益なものもある一方で、最新の医学的根拠(エビデンス)が不足している情報や、過度に不安を煽るような情報も混在しているのが実情です。
そこで今回は、整形外科の視点から「腰痛とどのように向き合うべきか?」について、「腰痛診療ガイドライン」というエビデンスをもとに、2回に分けて詳しくお伝えしていきたいと思います。

第1話となる本記事では、腰痛の基本的な知識から、腰痛を起こしやすい環境、最新の診療ガイドラインの考え方、レッドフラッグからグリーンフラッグまでの各種サイン、そして腰痛診療ガイドラインが公式に定めている原因分類と割合について、客観的な医学データをもとにじっくりと紐解いていきます。

 

🏢【腰痛とは?】 誰もが経験しうる国民的な悩み
腰痛とは、単一の特定の病名ではなく、「腰から背中、お尻にかけての範囲で生じる痛みの症状」の総称です。

腰痛診療ガイドラインにおける医学的な定義では、体幹の後面に存在し、第12肋骨と臀部の下端のラインの間にある、少なくとも1日以上継続する痛みとされています。片側、または両側の足にかけての痛みやしびれ(放散痛)を伴う場合もあれば、伴わない場合もあります。
厚生労働省が定期的に行っている国民生活基礎調査によると、病気やケガの自覚症状のなかで、腰痛は常に上位を占めており、まさに国民病と呼ぶにふさわしい症状です。生涯のうちに成人の約80パーセントが一度は腰痛を経験するとも言われており、決して他人事ではありません。

腰痛は、痛みが続いている期間(発症してからの有症期間)によって大きく3つに分類されます。

⚠ 急性腰痛:発症から4週間未満のもの。いわゆるぎっくり腰などが代表例です。

⚠ 亜急性腰痛:発症から4週間以上、3ヶ月未満のもの。急性期を過ぎて長引きかけている状態です。

⚠ 慢性腰痛:発症から3ヶ月以上痛みが継続しているもの。心身に様々な影響を及ぼし始めます。
この期間の長さによって、有効な治療へのアプローチが大きく変わってくるため、ご自身の痛みがどの段階にあるのかを正しく把握することが重要です。

 

🏢【腰痛を起こしやすい環境】 日々の生活習慣や職場環境の落とし穴
腰痛は、ある日突然、何の前触れもなく起こるように感じるかもしれませんが、実は日々の生活習慣や環境が複雑に絡み合って発症するケースが非常に多いのです。

ガイドラインでも生活習慣や職業的要因との関連性が示唆されています。

 

1.身体的負荷の大きい職業や動作
重量物を取り扱う労働、前屈や回旋といった腰椎への無理なひねりを伴う身体的な動きは、腰痛発症の大きな危険因子とされています。

当院の周辺である足立区や葛飾区エリアでも、運送業、建設業、清掃業、看護・介護職に就かれている方から多くのご相談を受けます。また、長時間の立ち仕事や、反対にデスクワークなどの座りっぱなしの姿勢も、腰の筋肉や椎間板に持続的な負担をかけ、腰痛を引き起こしやすくします。

 

2.体重のコントロール
標準体重(BMIが18.5から25.0の間)に比べ、体重過多や肥満傾向にある方は、腰椎にかかる物理的な負荷が増大するため、腰痛発症のリスクが高まります。

一方で、極端な低体重も腰回りの筋肉量の不足などを招き、背骨を支える力が弱くなるため、筋肉量を考慮した健康的な体重を維持することが腰痛の予防において推奨されています。

 

3.喫煙と飲酒
喫煙は腰痛発症リスクを中等度高めることがメタアナリシス等の研究で示されています。

タバコに含まれるニコチンなどの化学物質が血管を収縮させ、腰椎周囲の血流を悪化させることで、椎間板の変性に関与したり組織の修復を妨げたりすると考えられています。また、過度なアルコール摂取も腰痛の有病率と弱い関連があることが分かっています。

4.運動不足
日常的に運動を行っていない群は、週に3日以上の運動を習慣的に行っている群と比較して、腰痛の発症リスクが高まることが示されています。

運動不足は筋力や柔軟性の低下を招き、腰へのクッション性を低下させます。

 

5.職場や生活における心理社会的ストレス
仕事に対する満足度の低さ、仕事の単調さ、職場の人間関係、過度な精神的ストレスなどは、将来の腰痛発症や痛みの慢性化と強い関連があります。

精神的な負荷は痛みを伝える脳のシステムに働きかけ、痛みをより強く、より長引かせる性質があります。

 

📖【腰痛診療ガイドラインについて】 心と体を総合的に診る現代の医療
日本整形外科学会と日本腰痛学会は、最新の医学研究に基づき、医師や医療従事者が適切な治療を行うための指針として「腰痛診療ガイドライン」を策定しています。

2019年に改定された第2版では、それまでの「レントゲンやMRIなどの画像診断だけに頼る治療」から、患者さんの心理状態や社会的背景までを含めて総合的に評価し治療を行う「バイオサイコソーシャルモデル(生物・心理・社会モデル)」へと大きく考え方がシフトしました。
これは、腰の骨や筋肉といった「生物学的(身体的)な問題」だけでなく、不安やストレスといった「心理的な問題」、そして職場環境や家庭環境などの「社会的な問題」が複雑に絡み合って腰痛が引き起こされているという事実に基づいています。

🚦【レッドフラッグからグリーンフラッグについて】 腰痛に隠れたサインを見分けトリアージする
腰痛の診療において、治療の方針を決めたり、痛みの長期化を防いだりするために極めて重要視されているのが「フラッグシステム(警告信号・促進信号)」です。患者さんご自身でも知っておいていただきたい3つのサインをご紹介します。

🔴レッドフラッグ(Red Flags:赤信号・危険信号)
すぐに専門医での精密検査や緊急治療が必要な、重篤な脊椎疾患が隠れているかもしれないサインです。

・発症年齢が20歳未満、または55歳以上
・時間や活動性(動いているか休んでいるか)に関係のない腰痛(安静時痛・夜間痛)
・胸部痛を伴う場合
・がんの既往、ステロイド治療、HIV感染の既往がある
・栄養不良や、原因不明の体重減少
・広範囲に及ぶ神経症状(足の麻痺や感覚の消失など)
・構築性脊柱変形(背骨が明らかに曲がっている)
・発熱を伴う場合

これらに該当する場合は、単なる筋肉痛などではなく、悪性腫瘍、感染症、脊椎骨折などの重大な疾患が隠れている可能性があるため、速やかに当院をはじめとする整形外科をご受診ください。

🟡イエローフラッグ(Yellow Flags:黄信号・心理社会的要因)
腰の骨や筋肉に大きな異常はないのに、なぜか3ヶ月以上痛みが消えないという場合、このイエローフラッグが強く関わっています。

・不適切な信念や態度:腰痛を非常に危険な病気だと過剰に恐れたり、痛いときは絶対に安静にしていなければならないと信じ込んだりする状態(恐怖回避思考)。
・破局的思考:痛みを必要以上に最悪なものとして捉え、もう一生治らないと悲観的に考えてしまう状態。
・感情の問題:不安、抑うつ、無力感、強いストレスなど。
・労災補償や賠償金請求などの法的な問題が長引いている状態。

これらの心理社会的要因があると、脳が痛みに対して過敏になり、痛みが慢性化する原因となります。

🟢グリーンフラッグ(Green Flags:緑信号・回復促進要因)
レッドやイエローが注意すべき信号であるのに対し、グリーンフラッグは治療をスムーズに進めるための追い風となるポジティブな要素です。

・痛みを正しく理解し、適度に動かした方が早く治ると前向きに考えている。
・痛みを自分でコントロールできる自信(自己効力感)がある。
・家族や職場が腰痛に対して過剰に心配しすぎず、かつ適切なサポートをしてくれる環境がある。
・早期に復帰したいという前向きな意思がある。

当院でも、患者さんがこのグリーンフラッグの状態に少しでも近づけるよう、正しい知識の提供とサポートを行ってまいります。

 

📊【腰痛の原因となる分類と割合】ガイドラインが定める公式の診断分類
ここからは、腰痛診療ガイドラインで公式に定義されている「腰痛の分類と割合」について詳しく解説いたします。

ガイドラインでは、腰痛を「特異的腰痛」と「非特異的腰痛」の2つに大きく分類し、さらに原因ごとに分類を行っています。

■1.特異的腰痛(全体の約15パーセント)
特異的腰痛とは、レントゲンやMRI、血液検査などの各種検査によって、痛みの原因となっている病態や疾患を明確に特定できる腰痛のことです。腰痛全体のおよそ15パーセントがこの特異的腰痛に該当するとされています。
この特異的腰痛の中には、早急な対処が必要な重篤な病気(レッドフラッグ)や、足の強い麻痺を伴う疾患が含まれます。

・重篤な基礎疾患:悪性腫瘍(原発性・転移性脊椎腫瘍など)、感染症(化膿性椎間板炎、脊椎炎など)、脊椎外傷(椎体骨折など)。

・神経根や馬尾の圧迫を伴う疾患:重篤な神経症状を併発する腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症など。

・内臓や血管などの他領域から生じる疾患:腎尿路系疾患(尿路結石、腎盂腎炎など)、婦人科系疾患(子宮内膜症など)、血管系疾患(腹部大動脈瘤、解離性大動脈瘤など)。

■2.非特異的腰痛(全体の約85パーセント)
非特異的腰痛とは、各種検査を行っても、重大な病気(がんや感染症、骨折など)や、神経根への明らかな圧迫といった特定の原因疾患が確認できず、厳密な病理解剖学的な診断の特定が困難な腰痛を指します。
腰痛全体の約85パーセントを占めると定義されています。

これは「原因が全くわからない」というわけではなく、背骨を構成する椎間板、椎間関節、靭帯、筋肉などの退行性変化(加齢に伴う変化)が複数絡み合っているために、特定のひとつの場所だけに原因を絞り込むことが難しい状態であることを意味しています。

・脊柱構成体の退行性病変:加齢に伴って生じる椎間板性や椎間関節性の痛みがこれに該当します。

・筋・筋膜性:腰を支える筋肉や筋膜の緊張、慢性的な疲労から生じる痛みです。

・仙腸関節性:骨盤の関節の動きの不具合から生じる痛みです。

・心因性:うつ状態など精神的なストレスが原因となって生じる痛みです。

このように、ガイドラインでは、命に関わる疾患や神経の圧迫による特定の疾患(特異的腰痛)を除外したうえで、残りの大部分(非特異的腰痛)をトリアージし、日常生活の維持を促す方針をとっています。

 

💡 非特異性腰痛でも原因を絞り込める!
ひとつ前の2012年の腰痛診療ガイドラインでは、欧米の論文をもとに非特異的腰痛が85%を占めると記載されていました。

ただし近年の報告によれば、腰痛の原因は、問診や検査などを丁寧に実施することで、75%はその原因を特定できるという報告もあります。
内訳としては、椎間関節性22%、筋筋膜性18%、椎間板性13%、狭窄性11%、椎間板ヘルニア7%、仙腸関節性6%と75%以上で診断が可能であったとされています。
一方でこれらは適切な検査が可能な施設においてという条件があり、すべての医療機関で可能なレベルではないことも知っておく必要があります。

📝【第1話まとめ】
第1話では、腰痛の基本的な知識から、生活環境との関わり、最新ガイドラインにおける生物・心理・社会的アプローチ、危険なサインを見分けるフラッグシステム、そしてガイドラインが定める特異的腰痛と非特異的腰痛の分類と割合について詳しく解説いたしました。

足立区・葛飾区周辺にお住まいの皆さま、腰痛を正しく理解し、かつ適切に対処するためには、これらの医学的分類を知っておくことが非常に役立ちます。

続く第2話では、画像検査や詳細な評価方法、お薬や運動を用いた原因別の治療法、そしてご自宅で実践できる正しいセルフケアについて、さらに深く掘り下げてお伝えいたします。次回もよろしくお願いいたします。

 

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