シリーズを通してお伝えしてきました「体の痛みは心と関係がある?」について、今回は最終話となる第3話をお伝えしていきたいと思います。

前回の第2話から間が空いてしまいましたので、まずは復習からです。すでに1話と2話の内容をご存じの方は、第3話【慢性痛に対する取り組み】までスクロールしてくださいね。

【第1話 痛みとは何か?】

<痛みを急性痛と慢性痛に分けて考える>

○急性痛とは?
つまり、痛みは、「それ以上負担をかけないで!」という体から発せられるメッセージとなります。そのため急性痛は不可欠なものであり、私たちにとって必要な痛みとも言えます。鎮痛薬が有効とされているのが特徴です。

○慢性痛とは?
急性痛は、組織が回復していくことで鎮静化することが多いですが、慢性痛は長引きやすく、ケガをした部分の痛みが長時間持続しているものを指します。特徴として鎮痛薬が効きにくい場合が多く、抗うつ薬が時に有効な場合が多いとされています。

さらにそこには、急性痛のような症状を悪化させないための警告信号としての意味がないため、私たちにとっては不必要な痛みともとらえることもできます。

<痛みを感じる仕組みは2段階>

○一次痛
この痛みは、どこが痛いのか?どれぐらい強い刺激が加わったのか?を、瞬時に脳に伝え、鋭い痛みとして知覚される特徴があります。

ぶつけた時に最初に感じる「痛っ!!」というやつですね。

生体における警告信号の役割が大きいため、脳内にある痛みを感じる領域にダイレクトにその信号を送ります。一次痛は一過性であり、少し遅れて鈍く疼くような痛みである二次痛へ移行、発生していきます。

○二次痛
一次痛の後、「ジーン」または「ジンジン」と残る痛みです。

痛みの信号は、脳内にある複数の領域を経由し、痛みを感じる領域に送られるため、一次痛より遅れて感じるわけです。これらの信号は自律神経に関係する間脳の視床下部、情動に関係する島皮質や前帯状回、記憶に関係する扁桃体や海馬と呼ばれる場所などを経由するため、これらの機能にも影響を及ぼすことが知られています。

つまり、痛みは自律神経や感情、記憶に影響を与えてしまうということです。

【第2話 慢性痛とは何か?】

<「慢性痛」はなぜ痛みが続くのか?>

私たちはその痛みを、ケガをした部位で感じていますが、実際の痛みは、その刺激を脳に伝達することで処理されていることから、痛みは「脳」で感じていることになります。

慢性痛では、本来なら情報のやりとりがないはずの神経細胞同士がつながってしまったり、やりとりする情報量が増えたりすることで、痛みに関与する神経系が異常な興奮を起こし「痛い」という情報が脳に送られ処理され続け過敏になってしまうことが知られています。そのため、痛みを起こすような刺激でなくても「痛い」と認識し、さらにそれが「記憶」として脳内にとどまってしまうのです。

そのため、ケガや炎症が治った後も痛みを認識し続けてしまい、これが慢性痛となり、痛みが持続してしまうわけです。

<脳は痛みと心をつないでいる>

通常、脳は感じたり、伝えたりする際に、その目的や環境に応じて働く場所が決まっています。見るために必要な「視覚野」、聴き取りに必要な「聴覚野」など、その役割に応じた機能が脳内に局在して機能しています。ところが痛みの刺激については、その場所は明確になっておらず、むしろ脳全体で感じる仕組みになっているのです。これは、痛みを感じる仕組みが、生命を守るための警告信号として重要な役割を担っているからです。

例えば痛みを感じる伝導路(連絡路)の一つは、記憶に関係する扁桃体や海馬と呼ばれる脳の場所を経由することがわかっています。

痛みを生命にとって危険と判断するために、記憶として残すことにより繰り返さないようにしているわけです。しかしこれは急性痛としては意味がありますが、慢性痛の場合、持続的な痛みにはもはや生態を守るための危険信号としての意味はありません。痛みが持続することで意味もなく痛みを記憶し、さらに過去の痛みの記憶がこれを助長することで、脳内でもその刺激は増幅されるといわれています。

また、痛みと気分、感情をコントロールする脳内メカニズムは関係が深いことも解っています。痛みが続くと気分の落ち込みや不安、イライラや怒りっぽくなったりと、感情にも影響があるのです。

<脳はなぜ「急性痛」と「慢性痛」に分けて処理しようとするのか?>

脳は痛みの情報を処理する際に大きく3つの側面にとらえるといわれています。

①感覚的側面

「どこが痛いのか?」→「どういう痛みか」→「どのぐらいの強さの痛みか」と段階的に処理され、主に急性痛や痛みの場所がはっきりしている痛みの処理に使われます。

②情動的側面

本能的な不快感、恐怖、怒り、不安といった情動的な情報として処理されます。時には心拍数や血圧が上がったり、冷や汗が出たりなど自律神経活動の不調を伴うこともあります。

③認知的側面

今感じている痛みが、過去に経験した痛みと比べて、どのような意味を持つかを処理し、「この痛みはどれぐらい注意したほうがいいのか?」「この痛みはこの先どうなるのか」などの認識につなげ、最終的には痛めた部分(手足)をどのように使うべきかのイメージを作り上げます。

認知的側面に関与する信号は、情動に関係する前頭葉、記憶に関係する扁桃体や海馬などを経由し体のイメージを作り上げる頭頂葉へ伝えられるため、前述の情動的側面とも重なり、これが過剰に働くことで、結果として慢性痛に移行すると考えられています。

つまり急性痛と慢性痛は、脳が痛みをとらえた側面の結果、生み出されるものということになります。

<脳が起こす慢性痛の負のサイクル>

脳は3つの側面で、その痛みを情報処理しますが、その処理がうまくいかなくなることで以下のような負のサイクルが生まれるとされています。

○学習性不使用
痛いからと言ってあまりにも長く使おうとしない

→痛みの感覚的側面の情報処理能力が低下

→「どこが痛いのか?」「どれぐらい痛いのか?」がわからなくなってしまう→さらに情動的側面、認知的側面の情報処理能力の低下を招く→どこをどれぐらい動かしていいのかわからなくなる→他人の手足を動かしているような感覚で、動かせなくなってしまう

○痛みに対する注意力と感情コントロールはシーソーの関係

痛みを意識しすぎてしまう→感情が不安定になる
気持ちが前向きになる→痛みを感じにくくなる→痛みを意識しすぎるとよりつらくなってしまう

はい、ここまで長い復習になってしまいましたが、なかなか難しいお話でしたよね?

それでは本題の第3話 慢性痛に対する取り組みについてお話ししていきましょう。

【慢性痛に対する取り組み】

慢性痛がいかに難しく、厄介なものかを、シリーズを通してお伝えしてきました。

それではこの慢性痛に対してどのように取り組むべきか、一般的な解釈からお話ししていきたいと思います。

まず大切なのは、その痛みのリスクをしっかりと把握することです。

背中の痛み一つを取ってみても、実はいろんな可能性を秘めている場合もあります。
骨折、感染、心疾患、血流障害、骨壊死、悪性腫瘍など、痛みが長く続くときは改めてスクリーニングを行い、リスクを見直したうえで判断する必要がある場合もあります。そのリスクを除外したうえで、慢性痛の可能性が高い場合に必要な治療を検討していくこととなります。

慢性痛の治療は急性痛の治療とは異なります。別の病態として治療していくことが大切だとされています。

【慢性痛に関与する要素を把握する】

慢性痛は脳の痛みに関する情報処理の過程で生み出されるものであることは前述のとおりです。

しかしそもそも、なぜ慢性痛に移行してしまったのかを把握しないと、原因に対して対処できたことにはなりません。慢性痛に移行していく要素として以下の物が挙げられます。自分に該当するものがあれば、注意が必要です。

<生活環境>

○社会参加、活動の状況
・就労環境、就学環境、家事仕事、趣味活動の取り組み方など
これは社会と自らの関係において、どれだけストレスとなっているかが影響するとされています。このストレスは、仕事や家事の内容を指すものではなく、実は社会において自分がどのように評価されているのかという点において、どうストレスに感じているかを指します。そしてそれこそが、脳における痛みの処理には関係が深いと言われています。

○生活習慣
・生活様式(和式、洋式)、姿勢などの癖(いつも同じ場所と姿勢でテレビを見ているなど)
・歩き方(靴の減り方に左右差がある)、運動習慣の有無
・枕の高さ、良質な睡眠の確保

生活習慣は無意識のものです。よくよく意識してみないと気付かないものですが、日々の積み重ねが体の緊張や痛みへの過敏性を生み、痛みを回避する姿勢が習慣化していくとされています。

<心理的要素>

○抑うつ、気分の落ち込み、不安
前述のとおり、痛みと気分には深い関係性があります。前向きな思考ができず、痛みに対して否定的なイメージを持ちがちな方ほど、慢性痛が長引きやすい傾向があります。

○運動に対する向き合い方
痛みに対して適度な運動調整ができないと、動きが硬くなったり痛みを誘発しやすくなります。痛くなることが怖くて動かせない、リハビリの自主トレのし過ぎなど、極端な取り組み方は痛みの認知的側面に悪影響を及ぼします。

【「痛み」の治療方法】

前述のとおり、痛みは急性痛からはじまり、その後慢性痛へと移行していきます。経験上、慢性痛に移行すると症状は長引きやすく、その改善には時間がかかってしまうことが多く感じられます。
つまり、慢性痛に移行させないことが慢性痛そのものを防ぐ最大の治療となるわけです。

では、どのようにすれば慢性痛へ移行しなくなるのでしょうか?
そのヒントは、急性痛でしっかりと終わらせることにあります。

急性痛と慢性痛の治療に分けて、その対処を見ていきましょう。

<急性痛の治療方法>

急性痛は以下の3つの時期に分けられ、対処法も異なります。

①炎症期
炎症の症状として大切なサインは、「腫れ」、「熱感」、「発赤」となります。これは損傷部位で起こる血管の拡張と炎症物質を広げようとする反応から起こる現象で、これをいかに抑え込むかが治療のカギとなります。
具体的にはアイシングが有効とされ、冷却効果は血管を収縮させ炎症物質の拡散を防ぐほか、痛みを伝える神経の反応を遅らせる効果も期待されます。鎮痛薬を併用することで痛みを緩和していきます。
逆に温めてしまうと、炎症症状の悪化を招くため、この時期は温めることをしてはいけません。

②増殖期
損傷した組織が回復するため、細胞が増殖していく時期です。これには「栄養」が必要となるため、血流を促す治療が必要となります。具体的な治療としては温熱療法が挙げられます。温かさを感じる治療がほとんどですが、組織の奥に熱を伝えるレーザー治療や超音波治療も有効とされています。

③成熟期
再生した組織を強くして、損傷部位の補強を図る時期です。実はこの時期の治療が一番慎重な判断を求められます。

組織の動きを出そうとして痛みが発生してしまうと、筋収縮の惹起や交換神経の興奮を引き起こし、痛みの悪化を招くこともあります。逆にあまり動かさないようにしていると循環障害を起こし、これが新たな疼痛物質の生成につながってしまうことも知られています。適切な温熱療法と組み合わせ、運動療法が処方されることも多くあります。

【慢性痛に対する治療】
必要な時期の安静や、適切な運動を行わないことにより、痛みが持続、増悪したり、関節の固さ、筋力の低下を招くと慢性痛に移行してしまいます。慢性痛の治療は急性痛の治療と異なり、別の病態としてとらえることが大切だとされています。

治療としては、薬物療法やブロック療法、リハビリテーションが主体となりますが、何よりも痛みに対する患者さん自身の理解が不可欠とされています。

○薬物療法
①西洋治療薬
投薬内容によってはある程度期間服用が必要なものもあり、眠気を伴うものもあるため医師と十分話し合い処方されます。

②漢方治療薬
漢方薬は体を温める効果が期待でき、鎮痛薬や神経ブロック療法と併用することで効果を期待できます。副作用も少なく、眠気も気にすることなく使用できます。

○神経ブロック療法
神経や神経の周辺に局所麻酔薬を注射して、痛みの改善を図ります。麻酔薬が神経に作用し、痛みの伝わる経路をブロックすることで、痛みを取り除きます。

○リハビリテーション
物理療法や運動療法による筋及び腱の刺激が有効とされています。
痛みが局所に集中する治療を避け、患者さん自身が体全体を使って、主体的に運動に取り組むことが有効とされており、生活習慣の分析や運動の有効性を知ることで、患者さん自ら改善に取り組むことが大切です。

○痛みに対する取り組み方の指導
前述のとおり、痛みは脳に記憶されてしまいます。しかし痛くない場面は記憶されません。つまりこの「痛くない動き」を理解し、患者さん自らが痛みをマネジメントすることこそが、慢性痛のゴールとなってくるわけです。極端なゴール設定ではなく、痛みの少ない場面や、痛みを感じない姿勢など、それらの小さなゴールの積み重ねが慢性痛の改善には必要になります。

【近年の慢性痛に対する研究】

現在慢性痛に対する取り組みとして、様々な考察がなされており、医学的な文献も数多く報告されています。特に前述した脳による痛みの3つの側面のうち、感情的側面に対するアプローチが進んできています。それらはお薬をはじめ、物理療法、運動療法にも反映されています。

ここからはそのいくつかをご紹介させていただきます。

○「報酬予測」から情動的側面に関与する

報酬予測とは、「これをやったら、後でこんないいことがある」など、特定の情報から将来の報酬を予測することを意味します。

これには「ドーパミン」と呼ばれる脳内物質が関係しているとされています。
このドーパミンは、脳内にある「オピオイド受容体」と呼ばれる組織を活性化し、これが鎮痛効果をもたらすことが知られています。つまりこの報酬予測がドーパミンを介して鎮痛に関与することになるわけです。

薬効の無いクリームを塗るといった偽薬を使った実験では、「薬を塗ったらきっとよくなる」という報酬予測が働くことで、ドーパミンが活性化され、鎮痛に関与するという結果が得られています。

○目標思考的な自発運動が痛みの「感情的側面」→「認知的側面」を改善する

第2話でお話ししたとおり、「前頭前野」と呼ばれる領域の機能が抑制されることで、痛みを感じやすくなる脳の仕組みが知られています。痛みを意識すればするほど感情のコントロールができなくなってしまい、「不快、不安」という感情を引き起こし、さらにそれが痛みを感じやすくしてしまう悪循環に陥ってしまうのです。

しかしこの痛みを意識する「外側前頭前野」と呼ばれる脳領域を人為的に活性化することで、対となる「内側前頭前野」が活性化され、これをきっかけに不安や不快といった感情を抑制し、痛みの感受性をコントロールすることが可能との実験結果もあります。

一方でこの外側前頭前野は、目標志向的であってそれを実行しようとする医師により活性化されるといわれています。つまり、自らの意思によって、目標志向的に行動を起こすことが、慢性痛にも効果があるということになります。

目標を持った自発的な運動への取り組みが、慢性痛には重要と言えるわけです。

【まとめ】

シリーズを通して「痛み」についてお話してきましたが、みなさんいかがでしたか?率直に、難しいお話でしたね(笑)

痛みは脳で感じています。脳は心と体をダイレクトにつなぎ、「痛み」の感受性を支配していることになります。今みなさんが感じている痛みが慢性痛なのか?急性痛なのか?

急性期の対応は、その後の慢性痛にも大きな影響を与えます。

慢性痛への移行には、急性期の管理と普段の生活状況、社会的なストレスなどが関与しています。一度慢性痛になってしまうと、その対応は生活全体から見直す必要があるということです。しかし、痛みがある時はなかなか自分で何をどうすればいいのかわからないものですよね?

痛みがある時は自己判断せず、整形外科を受診し、専門的なアドバイスを受けることが大切です。

整形外科ってどんな時に通えばいいの?
ケガでもないから整形外科に通うのも変だし…
これぐらいの痛みで病院に行くのもおかしいけど、どこに行けばいいの?

そんな時は迷わず、あやせ駅前整形外科・内科へお越しください!

スタッフ一同、笑顔でお待ちしております(笑)

投稿日:2022年7月4日|カテゴリ:医療情報